ぎっくり腰をやってしまった。もう長年、癖のようになってしまって、普段も姿勢には気を付けているのだが、一瞬気を許した瞬間に痛めてしまった。ただ、痛みはさほどひどくない。5段階の1程度。日常生活はゆっくりなら支障はない。
そんなぎっくり腰もようやく治ってきた中、友人の建築家からのお誘いで、映画「人生クライマー」を観に行った。日本でも最高峰のクライマー、山野井泰史のドキュメンタリー映画である。
これが山野井氏の壮絶な崖登り人生の映画なのだった。8000mクラスの山の崖を単独で、頼れるのは自らの体力と、登頂する意志、後はロープ、ハーネス、カラビナなどの装備品。これまで生死をさまよう危険な状況に何度か直面したことも語られ、山岳界の人々からは、これまでアタックした崖を制覇していること自体もすごいが、「生き残っていることが最もすごい」と言われている。
映画は目もくらむような高度の崖からの眺めや、雪の壁に吊り下がって野宿したり、雪崩にあったり、山頂からの、ほとんど宇宙?に手が届きそうな空の映像も圧倒的だった。ただ見終わってじわじわと僕の心に残っているのは、山野井さんと奥さんの日常の暮らしぶりの部分だった。奥さんもかなり実力のある登山家であるのだが、凍傷で両手と足の指をほとんど失っている。(山野井さんも手の小指、薬指と足の指を失っている)観ている方が、指が無い、ということにしばらく気付かないほど二人で楽しそうに、畑を耕したり、ミカンを収穫したり、猫に餌をあげたりしている。2人には次の目標とする崖をどう登りきるか、そのための日常生活であり、指の無いことは日常生活の中では、ハンディというくくりには捉えていないように感じた。純粋に明るく、笑顔だ。ハンディキャップという言葉が無意味な生活もある、ということを教えてもらった。
崖を登ることは僕には到底できないけど、人生、何か大きな夢や意志を抱いていれば、これまで大きな壁と思っていたことが、気にしないくらいの小さなものに見えてくるのかもしれないと、思えてきて、腰をさすりながらも何だかじわりと力が沸いた気がしたのだった。
(なお、上映された映画館は、JR青梅駅から15分ほどにある昭和初期に建てられた旧繊維試験場(国登録有形文化財)の木造建築をリノベーションしたもの。建物の雰囲気もよかったなぁ)